不動産投資の物件情報で最初に目に入るのが「利回り」です。多くの場合、これは表面利回りを指しています。
表面利回りは比較の入口としては有効ですが、この数字だけで投資判断をすると、手残りが想定と大きく乖離します。その理由を、3段階に分解して見ていきます。
段階1|表面利回り ― 何も引かれていない数字
表面利回り(%)= 年間家賃収入 ÷ 物件価格 × 100
物件価格2,000万円、月額家賃13.3万円(年間160万円)なら、表面利回りは8.0%となります。
この計算には、保有中にかかる費用が一切含まれていません。また、購入時の諸費用(仲介手数料・登記費用・不動産取得税など)も物件価格に加算されていません。
段階2|実質利回り ― 保有コストを引く
実際には、物件を保有しているだけで次のような費用が発生します。
| 費用項目 | 年間の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 管理費・修繕積立金 | 120,000円 | 区分マンションの場合。将来値上がりする可能性がある |
| 賃貸管理手数料 | 80,000円 | 家賃の5%程度が一般的 |
| 固定資産税・都市計画税 | 100,000円 | 物件・地域により変動 |
| 火災保険・地震保険 | 15,000円 | 年額換算 |
| 空室損(稼働率95%想定) | 80,000円 | 年間1か月弱の空室を想定 |
| 原状回復・修繕費の積立 | 60,000円 | 退去時の補修に備える |
| 合計 | 455,000円 | ― |
年間家賃収入160万円からこの45.5万円を引くと、手元に残るのは114.5万円です。購入時の諸費用を150万円として物件取得総額を2,150万円とすると、実質利回りは次のようになります。
表面8.0%が、実質では5.3%になりました。この時点ではまだ黒字です。
段階3|ローン返済後 ― ここで初めて手残りが見える
融資を利用している場合、上記の114.5万円からローン返済額を引いたものが、実際の手残り(キャッシュフロー)になります。
| 条件 | 金利1.5%・25年 | 金利3.0%・25年 |
|---|---|---|
| 借入額 | 1,800万円 | 1,800万円 |
| 年間返済額(概算) | 約863,000円 | 約1,024,000円 |
| 実質収入 | 1,145,000円 | 1,145,000円 |
| 税引前キャッシュフロー | +282,000円 | +121,000円 |
※ 元利均等返済による概算値です。実際の返済額は金融機関の計算方法により異なります。
金利1.5%なら年28.2万円の手残りですが、金利が3.0%になると12.1万円まで縮小します。そしてここから、さらに所得税・住民税が引かれます。
上記の試算は「順調な状態」です。次のいずれかが起これば、手残りは容易に赤字へ転じます。
・空室が3か月続く(家賃収入▲40万円)
・給湯器・エアコンの交換(一時費用20〜40万円)
・金利が1ポイント上昇(年間返済額が10万円前後増加)
表面利回り8%という数字からは、この構造は見えません。
数字を見るときの3つの原則
1. 表面利回りは「比較の入口」にすぎない
複数物件を並べて大まかに絞り込むには有効です。ただし投資判断の根拠にはなりません。
2. 保有コストは項目別に積み上げる
「経費は家賃の20%くらい」といった概算ではなく、管理費・税・保険・空室損・修繕積立を、実際の数字で積み上げる。この作業をしないと、実質利回りは出せません。
3. 金利上昇シナリオで再計算する
金利+1%、+2%で手残りがどうなるか。赤字に転じる金利水準を先に把握しておくと、その物件を持ち続けられる条件が明確になります。
まとめ
- 表面利回りには保有コストも購入諸費用も含まれていない
- 実質利回りは、項目別の費用を積み上げて初めて算出できる
- 融資を使う場合、手残りはローン返済後に見るべき数字
- 空室・修繕・金利上昇の3つが、手残りを赤字に転じさせる主因
- 赤字に転じる金利水準を、購入前に把握しておく
不動産投資において、利回りは「もらう数字」ではなく「検証する数字」です。提示された数値をそのまま受け取るのではなく、分解して確かめる習慣が、判断の精度を決めます。
・ローン返済額は元利均等返済による概算値であり、金融機関の計算方法により異なります。
・税務上の取り扱いについては、税理士にご確認ください。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、投資勧誘や個別物件の推奨ではありません。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の物件・取引の勧誘や、投資・税務・法務に関する個別の助言ではありません。実際のご判断にあたっては、必要に応じて税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。
その物件の数字、一緒に分解しませんか。
検討中の物件について、保有コストの積み上げと金利上昇シナリオでの再計算を整理します。特定物件の推奨は行いません。判断材料の提供に徹します。